秋といえば、読書の秋、食欲の秋。秋に食べるものといったら、ジビエでしょう!
ジビエ(gibier)は、フランス語。狩猟で得た野生の鳥獣の食肉のことです。フランスなどでは貴族の伝統料理だったそう。
最近、日本でもじわじわとジビエが注目されています。岡本健太郎さんの漫画『山賊ダイアリー』のようにハンターの生活を描いたもののほか、「狩猟ガール」なんて言葉もみられるようになりました。
ワタシも最近、香嵐渓近郊のジビエ専門の食肉店で、シカ、イノシシの肉やフランクフルトを買ってきて、おいしくいただきました。イノシシはばら肉を牡丹汁に、シカは薄くスライスしたロース肉をサッと焼いて、焼き肉のタレをつけて…、これがウマいのなんのって。
ところで、野生鳥獣なんですが、法律上の取り扱いはどうなるのでしょうか?これが今回のテーマです。
1 野生の鳥獣は「無主物」
民法上、野生の鳥獣は「無主物」と扱われます。無主物というのは所有者のいない「物」のことです。ドイツのように、単純に「物」という扱いをしない国もありますが、日本では動物を「物」と扱います。
では、ハンターの方が狩猟により捕獲したシカ・イノシシは、誰の所有になるでしょうか?普通に考えて、ハンターの方に所有権があると思いますよね?その通り。民法239条をみてみましょう。
【民法239条】(無主物の帰属)
第1項 所有者のない動産は、所有の意思をもって占有することによって、その所有権を取得する。
第2項 所有者のない不動産は、国庫に帰属する。
動物は、「物」のうち「動産」にあたります。したがって、野生鳥獣については所有の意思をもって占有することによって所有権を取得します。無主物先占などとも呼ばれる所有権取得方法のひとつです。したがって野生のシカ・イノシシは、捕獲した人に所有権が帰属します。
2 野生鳥獣の捕獲等
けれども、ここで注意が必要です。というのも、野生の鳥獣の捕獲などに関しては「鳥獣保護管理法」(鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律)による規制もあるからです。
この法律の第8条は、つぎのように規定しています。
【鳥獣保護管理法8条】(鳥獣の捕獲等及び鳥類の卵の採取等の禁止)
鳥獣及び鳥類の卵は、捕獲等又は採取等(採取又は損傷をいう。以下同じ。)をしてはならない。ただし、次に掲げる場合は、この限りでない。
一 次条第一項の許可を受けてその許可に係る捕獲等又は採取等をするとき。
二 第十一条第一項の規定により狩猟鳥獣の捕獲等をするとき。
三 第十三条第一項の規定により同項に規定する鳥獣又は鳥類の卵の捕獲等又は採取等をするとき。
たとえば狩猟免許を受けたハンターさんであれば、野生鳥獣の捕獲等または採取等が認められます。このような一定の例外を除いて、原則、野生鳥獣の捕獲等または卵の採取等をすることは禁止されているのです。
捕獲等とは野生鳥獣を捕獲・殺傷する行為のことをいい、採取等とは鳥類の卵を採取・損傷することです。面白半分にカモやネコに石を投げて殺傷したりボウガンの矢を撃って殺傷するような場合も、「捕獲等」にあたり禁止されているということです。鳥獣を殺傷したり鳥類の卵を損傷した場合も、「捕獲等」に含まれているのはなぜでしょうか?この点については、つぎのように解説されています。
「鳥獣を殺傷し、又は鳥類の卵を損傷する行為は鳥獣の保護への影響という面では自己の支配内に入れようとする捕獲又は採取と差異がないことから、これらの行為と同様に制限することとしている。」(環境省自然環境局野生生物課鳥獣保護管理室監修『鳥獣保護管理法の解説〔改訂5版〕』(大成出版社、2017年)64頁)
しかし、そうだとすると自動車を運転中に突然シカやイノシシが飛び出してきて轢いてしまい、殺傷した場合はどうなるのでしょうか?この点に関しては、
「基本的には、鳥獣の捕獲等又は鳥類の採取等はその意思を持って当該行為を行う場合に該当すると考えられ、捕獲等又は採取等を行う意思がなく結果として鳥獣を捕獲等又は採取等に至った場合には、これを罰しないこととしている。」(環境省自然環境局野生生物課鳥獣保護管理室監修『鳥獣保護管理法の解説〔改訂5版〕』(大成出版社、2017年)65頁)
このことから、うっかりシカやイノシシを自動車で轢いてしまって殺傷したとしても、捕獲等には当たらないというワケです。ちなみに、死亡を確認してからであれば、轢いて殺傷した鳥獣を取得してもかまわないようです。鳥獣保護管理法8条は「生きている個体」を対象にしているからです。
3 鳥獣保護管理法に違反した捕獲等と所有権
では、鳥獣保護管理法8条の規定に違反して、野生鳥獣を捕獲・採取した場合、野生鳥獣の所有権はどのように扱われるのでしょうか?いいかえれば、無主物の取得が法律により制限・禁止されているにもかかわらず、占有を取得した場合でも所有権を取得するのでしょうか?
この点については、以下のように考えられています。
「かつては、禁止に反した取得によっては先占は生じないと解されていた(中略)。しかし、原則として私法上の効果に影響しないとし、個々の場合に具体的に検討すべきであろう。」(川島=川井編『新版注釈民法(7)物権(2)』(有斐閣、2007年)381頁〔五十嵐清=瀬川信久〕)
つまり、鳥獣保護管理法の規定内容等から考えて違反者に所有権を取得させない趣旨かどうか、そうでなければ民法239条により原則として所有権を取得するということになります。ここで、つぎの規定をみてください。
【鳥獣保護管理法83条】
第1項 次の各号のいずれかに該当する者は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
一 第八条の規定に違反して狩猟鳥獣以外の鳥獣の捕獲等又は鳥類の卵の採取等をした者(許可不要者を除く。)
二~六号(略)
第2項 (略)
第3項 第一項第一号から第二号の二まで、第四号及び第五号の犯罪行為の用に供した物及びその犯罪行為によって捕獲した鳥獣又は採取した鳥類の卵であって、犯人の所有に係る物は、没収する。
同条は、罰則についての規定です。さきにみた鳥獣保護管理法8条の規定に違反した場合には、超高額なジビエ料理となります。1年以下の懲役または100万円以下の罰金です。